大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)444号 判決 1968年3月28日
控訴人(附帯被控訴人) 彦根相互トラック株式会社
右代表者代表取締役 佐竹善蔵
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 石原即昭
被控訴人(附帯控訴人) 奥村肇
右訴訟代理人弁護士 野玉三郎
主文
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を次のとおり変更する。
2 控訴人らは被控訴人に対し各自金一、一七六、〇三五円及びこれに対する昭和三八年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。
5 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その一を控訴人ら(附帯被控訴人ら)の連帯負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
6 この判決は、主文第二項に限り、被控訴人が金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
控訴人ら(附帯被控訴人ら、以下単に控訴人らという。)は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)の附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は、「控訴人らの本件控訴を棄却する。原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人らは被控訴人に対し各自金一、八〇六、七五七円及びこれに対する昭和三八年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
証拠関係≪省略≫
理由
一、控訴会社が自動車運送業を営み、控訴人内川を自己の営業のため使用し、自動車運転の義務に従事させているものであること、昭和三七年一一月二八日午後〇時五〇分頃滋賀県近江八幡市馬淵町一、六五二番の一地先の国道上において、控訴人内川の運転する控訴会社保有のセメント運搬用特殊自動車(以下控訴会社の車という。)と被控訴人の運転する大型貨物自動車滋一す二三七八号(以下被控訴人の車という。)とが衝突し、被控訴人の車が大破し、被控訴人が負傷したことは、当事者間に争がない。
しかして、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。
本件事故現場は国道八号線の舗装面幅員約七メートルの平坦な東西に通ずる道路であって、その西方約五〇〇メートルの間は直線道路であり、その東方約七〇メートルの間は直線道路であるが、それより先は南にかなり急カーブをなしており、道路中央部に舗装継目があり、これが中央線をなし、確認できる状態にあった。控訴人内川は、本件事故当日、控訴会社の事業執行のため、セメントを満載して前記控訴会社の車を運転して、右国道を西進し、時速約五〇キロメートルの速度で本件事故現場地先の右カーブに差しかかったが、減速徐行することなく漫然と右カーブを通過したので、高速と重量のため遠心力が強く作用し、大曲りとなり、中央線を著しく北側寄りに越え、直線コースに入ってからも直ちに中央線の南側に復帰することなく、そのまま進行し、折柄前方から対向して来た被控訴人運転の砂利積載の大型ダンプカーである前記被控訴人の車が中央線すれすれに沿って進行して来るのに気付かず、約五〇メートルの至近距離に接近して初めてこれを認め、危険を感じてあわてて急ブレーキをふむとともにハンドルを左に切って被控訴人の車を避けようとしたが、間に合わず、その瞬間同車に正面衝突した。被控訴人も当時被控訴人の車を時速約五〇キロメートルで運転して右国道の中央線の北側を中央線すれすれに沿って東進し、本件事故現場地先に来たものであるところ、前方カーブを大曲りして中央線を北側に著しく越えたまま接近して来る控訴会社の車を約一〇〇メートル前方に認めたが、同車は当然中央線の南側に復帰するものと軽信し、ただ速度を時速約三五キロメートルに落したのみで、道路北側路肩辺に避けることなく、漫然と中央線の北側を中央線すれすれに沿ったまま進行を続けた。ところが、控訴会社の車は中央線の南側に復帰せず、被控訴人の車の進行路線上を真正面に迫ってきたので、被控訴人は正面衝突の危険を直感し、咄嗟に警笛を鳴らし、急ブレーキをかけるとともに反射的にハンドルを右に切ったが、その瞬間控訴会社の車が被控訴人の車に正面衝突し、これを大破するに至らしめたものである。右事故により被控訴人は失神し、約二〇日間意識を回復せず、かつ、脳震盪症、左後頭部挫創、右膝関節打撲症の全治七ヵ月の傷害を負った。
控訴人らは被控訴人の車も中央線を南側に越えて直進してきたと主張するけれども、≪証拠判断省略≫他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
自動車の運転者たる者は、自動車を運転して急カーブを通過するときは前方を注視するは勿論、減速徐行し大曲りになって道路中央線を越えないように努力し、もしこれを越えたときは速かに中央線内に復帰するよう措置するとともに前方を注視し、特に対向車の有無及びその動向に気をつけ、もし自己の進行路線上に対向車があるときは、速かにこれを発見し、これを避け、又は減速徐行していつなんどきでも急停車の措置をとることができるように細心の注意を払い、安全を確認しつつ進行し、もって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものというべきところ、以上認定の事実によれば、控訴人内川は右注意義務を著しく怠ったものであり、同人に自動車運転上の過失があったものというべく、本件事故は同人の右過失によって惹起されたものであること明らかである。
ところで、一方、自動車の運転者たる者は、自動車を運転して前方カーブに近づいたときは、特に対向車の動向に注意を払い、もし対向車がカーブを大曲りして道路中央線をはるかに越えたまま接近して来るような異常状態を認めたときは、対向車の方が当然中央線内に復帰してくれるものと軽信することなく、速かに道路左側路肩一杯に避けて減速徐行し、急停車の措置をとることができるようにし、もって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものというべきところ、前記認定のように、被控訴人は中央線を北側に越えたまま接近して来る控訴会社の車を約一〇〇メートル前方に認めながら、同車が当然中央線の南側に復帰するものと軽信し、減速はしたものの道路北側路肩辺に避けることなく、漫然と中央線の北側を中央線すれすれに沿ったまま進行し、急停車の措置をとったときは、時すでに遅く控訴会社の車に正面から衝突されるに至ったものであるから、本件事故の発生については被控訴人にもまた過失があったものといわざるをえない。
なお、控訴人らは、本件事故当時控訴人の車は自動車損害賠償保障法に定められた責任保険に加入されていなかったものであるから、被控訴人は運行の用に供してはならない自動車を運転していたものであり、被控訴人には自動車の運転自体に過失があったと主張し、本件事故当時被控訴人の車が右責任保険に加入されていなかったことは被控訴人も認めるところであるが、原審における被控訴人本人の供述によれば、たまたま右責任保険の継続手続が未了の間に本件事故が発生したものであることが認められ、被控訴人は右自動車損害賠償保障法により運行を禁止されている被控訴人の車を運転したことにつき同法違反の責任を免れえないが、右事実の存在に基因して本件事故が惹起されたものであるとは到底いうことができないから、被控訴人が運行を禁止されている被控訴人の車を運転したことの過失も本件事故発生の原因をなしているとの控訴人らの主張は採用することができない。
そうすると、控訴人内川は前記過失により本件事故を惹起し、直接被控訴人に対し損害を与えたものであるから、民法七〇九条によりその損害を賠償すべき義務があること勿論である。控訴会社は自動車運送業を営み、控訴人内川を自己の営業のため使用し、自動車運転の業務に従事させているものであるところ、本件事故は控訴人内川が控訴会社の事業の執行のため控訴会社保有の自動車を運転中、過失によって惹起したものであるから、控訴会社は本件事故により被控訴人に与えた損害のうち身体傷害によるものについては自動車損害賠償保障法三条により、自動車の破損によるものについては民法七一五条によりこれを賠償すべき義務があること明らかである。もっとも、前記のとおり本件事故は控訴人内川の過失によって惹起されたものではあるが、一方、被控訴人の過失もこれに競合して惹起されたものであることは控訴人らのいうとおりであるけれども、本件の場合、被控訴人の過失は後記過失相殺の問題として損害賠償の額を算定するにつき斟酌されるにすぎないものであって、被控訴人に右過失があるとの故をもって控訴人らが本件事故による損害賠償責任を免れることができないものであることはいうまでもない。
二、そこで、次に、被控訴人が本件事故により被った損害について検討する。
(一) 車両損失
≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。
被控訴人の車は被控訴人が昭和三五年一二月一九日近畿日野ヂーゼル株式会社から代金二六五万円とし、これに分割支払のための金利二八七、四三三円を加えた金額を、内金三〇万円は即時支払い、残金は昭和三六年二月から昭和三八年一月まで毎月二八日限り一一万円ずつ(但し、最終回は一〇七、四三三円)支払う約で購入した新車であった。もっとも、右購入にあたり、売主の要望により形式上は買主を野洲川建設株式会社とし、被控訴人をその連帯保証人ということにし、右分割金は毎月右会社が被控訴人に支払うべき運送料の中から差引き、直接売主に支払うこととした。しかして、右自動車の所有権はいったん売主から買主に移転したものとし、あらためて買主から売主に対し右分割金支払担保のため信託的に譲渡し、右分割金完済のとき売主から買主に完全に移転するものとした。そして、右分割金の支払は約定どおり履行され、本件事故当時は最終の二回分のみが期限未到来のため残っていたが、それもその後被控訴人において約定どおり支払を完了したので、被控訴人は完全に右自動車の所有権を取得するに至ったものである。
他に右認定に反する証拠はない。したがって、本件事故当時右自動車の所有権が売主たる近畿日野ヂーゼル株式会社に帰属していたものであることは控訴人らの主張するとおりであるが、本件事故当時被控訴人は右分割金の支払を完了したとき右自動車の所有権を完全に取得しうべき一種の条件付権利すなわち期待権を有していたものであり、右分割金の支払が約定どおりに履行され、ただ期限未到来の最終の二回分のみが残っていたにすぎなかったことに鑑みれば、被控訴人の有した右期待権は実現の可能性の極めて強度のものであったというべく、被控訴人は本件事故により右自動車を大破され、右期待権を侵害されたものであるが、それによって被った損害は右自動車の所有権を侵害された場合に準ずるものというを妨げないから、被控訴人が右車両損失による損害の賠償請求権を有しないとの控訴人らの主張は採用することができない。
しかして、≪証拠省略≫によれば、本件事故により被控訴人の車は大破され、修繕不能の状態となったことが認められ、これに反する証拠はないから、被控訴人は前記期待権を侵害され、右自動車の本件事故直前における価額から事故後大破したものを処分して取得した価額を控除した額に相当する損害を被ったものというべきである。ところで、≪証拠省略≫によれば、被控訴人の車の本件事故直前における価額は少くとも七〇万円はしたものであると認めるのが相当であり、右価額がそれ以上であったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、被控訴人は右自動車の大破により右七〇万円から被控訴人が本件事故後大破した右自動車を処分して取得したと被控訴人において自認するところの六万円を控除した六四万円の損害を被ったものである(被控訴人は右処分時までに被控訴人の車の保管料として四万円を支払ったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。
被控訴人の車の本件事故直前における価額の評価について、被控訴人は減価償却額を定額法により算出して評価すべきであると主張し、控訴人らは減価償却額を定率法により算出して評価すべきであると主張する。しかし、減価償却額を定額法により算出し、又は定率法により算出して自動車の価額を評価する方法は、税務処理上又は会計事務処理上資産を評価する方法として採用されているものであって、本件のように自動車事故による損害賠償請求事件において、その損害額算定にあたり、事故により破損を受けた自動車の価額を評価する必要がある場合に、他にその価額を認定するに足りるなんらの資料がないときには、右定額償却法又は定率償却法により評価しても差支えがないと考えられるが、前記認定のように被控訴人の車の価額を認めるに足りる証拠がある場合には、必ずしも定額償却法又は定率償却法により評価しなければならないものではない。
(二) 医療費
≪証拠省略≫によれば、被控訴人は本件事故により前記傷害を受け、事故直後滋賀県近江八幡市鷹飼二一番地深井医院に運ばれ、それから昭和三八年二月五日まで同医院で入院治療を受け、同月六日から同年四月二九日まで同医院に通院治療を受け、同医院にその間の治療費として九九、〇〇〇円を支払ったものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。したがって、被控訴人は本件事故による受傷のため同額の財産上の損害を被ったものというべきである。
(三) 逸失利益
≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。
被控訴人は野洲川建設株式会社と専属の運送契約を締結し、被控訴人の車を使用して右会社の注文による砂利バラス等の運送をすることを業とし、同会社から運送料を得ていたものであるところ、本件事故による負傷のため前記深井医院に入院及び通院して治療を受けていた事故直後から昭和三八年四月二九日までの間右営業に従事することができなかったのみならず、その後も本件事故により頭部を強打したため脳傷害の危険があり、なお二ヵ月の休業療養を要する状態であったので、同年六月末日までやむなく右営業に従事することができなかった。
≪証拠判断省略≫
したがって、被控訴人は右休業により得べかりし利益を喪失したものというべきところ、≪証拠省略≫によれば、本件事故直前である昭和三七年八月二一日から同年一一月二〇日までの三ヵ月間における、被控訴人の得た運送料は合計七五三、一三三円、修理費は合計八六、五八九円、燃料費は合計一三五、一八九円、事務費は合計三、四七三円であって、その間に被控訴人が得た運送料から修理費、燃料費、事務費を控除した被控訴人の収入は合計五二七、八八二円であり、その一ヵ月の平均は一七五、九六〇円であることが認められる。そうすると、被控訴人は本件事故により休業した期間である事故の翌日の昭和三七年一一月二九日から昭和三八年六月二八日までの七ヵ月間に、もし右営業に従事することができたならば、運送料から右修理費等の経費を控除した収入として合計一、二三一、七二〇円の収入を得ることができたであろうことが推認される。
しかしながら、控訴人ら主張のように、被控訴人が右収入を得るためには自動車を保有使用することが必要であるから、自動車の減価償却費を必要経費として右収入額から控除したものを被控訴人の純収益とするのが相当である。そして、所得税法上減価償却の方法につきなんら特別の届出がなされていなかったものであることが弁論の全趣旨により明らかな被控訴人の車については、所得税法上は定額法によりその減価償却費を算出すべきものであることは、当時施行の所得税法施行規則一二条の一二及び一四により明らかであるところ、同規則及び当時施行の「固定資産の耐用年数等に関する省令」(昭和二六年五月三一日大蔵省令五〇号)によれば右自動車の耐用年数は四年、償却率は年二割五分、残存価額は取得価額の一〇〇分の一〇、取得価額は二六五万円であるから、右定額法により算出した右昭和三七年一一月二九日から昭和三八年六月二八日までの七ヵ月間の右自動車の減費価償却は三四七、八一二円であること算数上明らかであるので、特段の事情の認められない本件では、右減価償却費を前記収入から控除した八八三、九〇八円を被控訴人が前記休業期間中に得べかりし純収益というべきであり、被控訴人は本件事故による休業のためこれを喪失し、同額の財産上の損害を被ったものである。
控訴人らは、被控訴人は野洲川建設株式会社に自動車運転者として月収三万円で雇われていたもので、同会社と専属の運送契約を締結して運送料を得ていたものではないと主張するが、≪証拠判断省略≫右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
控訴人らは、被控訴人は自動車運送事業の経営につき運輸大臣の免許を受けていなかったから、被控訴人の事業は違法であり、その収入利益は不法であって、本来得べきでないものを得られなくなったものであるから、右利益の喪失により損害を被ったものとはいえないし、右利益は法の保護に値しないもので、損害賠償として請求することは許されないと主張する。そして、被控訴人が右免許を受けていなかったことは、被控訴人の自認するところであるから、被控訴人の自動車運送事業の経営は道路運送法四条一項に違反し、処罰の対象となりうるものということはできる。しかしながら、被控訴人の右事業経営が右法律に違反していても、その事業経営の過程において、被控訴人が他人と締結するそれぞれの運送契約が私法上当然無効となるべき筋合のものではなく、被控訴人は右契約に基づき相手方に対し運送賃の支払を請求しうる権利を取得し、右権利に基づき運送賃を受領することを妨げないものといわなければならない。したがって、被控訴人が本件事故により負傷し、休業のやむなきに至り、運送契約に基づく運送賃取得の機会を失った以上、賠償さるべき損害の実体は現存するものであり、被控訴人に損害がないとはいえない。また、道路運送法四条一項の事業免許制の根本趣旨は、事業の公共性に鑑み、輸送秩序の維持と不当競争の防止を図ることにあり、事業による営利自体を直接規整しようとするものではないから、被控訴人の右無免許営業を目して当然反道徳的で醜悪な行為ということはできないし、その違法性は微弱であって、その営業利益は法の保護に値しないものともいえない。したがって、被控訴人は前記得べかりし利益の喪失による損害の賠償を請求することができるものと解するのが相当であるから、控訴人らの右主張は採用しない。
(四) 慰謝料
前記認定の本件事故により被控訴人の受けた負傷に関する諸事実に照らせば、被控訴人が本件事故により甚大な精神的苦痛を被ったことは明らかである。原審における被控訴人本人の供述によれば、被控訴人は前記負傷により自動車運転の業務に従事する気力を失い、現在は宅地造成会社に雇われ軽労働に服しているが、疲労し易く、物忘れするようになり、今後有利な元の職業に復帰できるか不明の状況にあることが認められ、右事実に前記認定の本件事故の態様、被控訴人の負傷の部位、程度など諸般の事情を総合して考えると、被控訴人の右精神的苦痛は二〇万円をもって慰謝することができるものと認めるのが相当である。
三、以上認定したとおり被控訴人は本件事故により、(一)車両損失による損害六四万円、(二)医療費九九、〇〇〇円、(三)逸失利益八八三、九〇八円、(四)慰謝料二〇万円、以上合計一、八二二、九〇八円の損害を被ったものであるというべきところ、さきに認定したように本件事故発生については被控訴人にも過失があったものであるから、前記認定の被控訴人の過失を斟酌すれば、控訴人らが被控訴人に対し賠償すべき額は、被控訴人の被った右損害額の一〇分の七に相当する一、二七六、〇三五円をもって相当というべきである。そして被控訴人は控訴人らから自動車損害賠償責任保険金一〇万円を受領したことは、その自認するところであるから、これを右賠償額から控除すべきものとし、結局、控訴人らが被控訴人に対し賠償すべき金額は一、一七六、〇三五円となるものといわなければならない。
四、そうすると、控訴人らは各自被控訴人に対し右損害賠償金一、一七六、〇三五円及びこれに対する本件事故発生の後である昭和三八年七月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があること明らかであるから、被控訴人の本訴請求は、右義務の履行を求める部分は正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきである。したがって、原判決が右の限度を超えて被控訴人の本訴請求を認容したのは不相当であって、控訴人らの本件控訴は一部理由があるから、原判決中控訴人ら敗訴部分を変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条一項但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 坂速雄 判事 谷口照雄 輪湖公寛)